第一章(4/6) ロングヘア:阿賀孝典

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   眠りに引きずられた頭をなんとか叩き起こし、朝10時から、動画の編集作業を開始する。  ある程度整った15時ごろ。  広告代理店のやつらが来て、昨日まで言っていたことと全然違う指示を入れてくる。  やつらの分のコーヒーやお菓子を用意してやりながら、それをなるべく不機嫌な顔せずに直してやる。  そのあと18時ごろにクライアントの飲料メーカー広告部のおっさん共が来る。  踏ん反り返って座っているおっさん共と、さっきまでおれらに偉そうにしていたくせに急にへこへこし始める広告代理店のやつら。 「一応、18時は定時なんですけどね。働き方改革、分かってます? うちも厳しいんですよねぇ」  だっさいネクタイをしたおっさんが何か言い始める。  お前らのところの社長のフィードバックがいったりきたりしてるからこうなってんだろうが。 「申し訳ございません、なんとか良いものにしたくて、お時間かかってしまって……」  代理店の営業がへこへこと答える。    本当に揉み手ってするんだな。  手をすりすりさせながら、小さい声で、 「すみません、例のお菓子ってご用意できてますか?」  こちらに指示を飛ばして来る。  東京駅のデパートで一時間並ばないと手に入らない高級なお菓子を、おれが今日急遽買いに走っていた。  箱をこっそり渡してやる。 「こちら、よろしければ……」  自分が買いに行ったみたいな顔をして、営業がお菓子を開く。  大して嬉しそうにもせず、食べるおっさんども。  おっさんはおっさんでまた勝手なことを言ってくるのに対応して、を繰り返し、文字修正と少し時間のかかりそうな動きの修正を残して、22時におっさんどもが帰っていった。 「それじゃ、あと、お願いしますね。家で確認するので、深夜でも構いませんので送ってください。今日チェックしたいです。」  広告代理店の営業が言う。  深夜でも構いません、ねえ……。
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