第一章(4/6) ロングヘア:阿賀孝典

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 翌日、それを見た日和から、電話がかかってきた。 『ねえ、これって、どういうこと? この人誰? 私たちってどういう関係なの?』  彼女がわめくのに相手をしている時間も体力もなかった。 「うるせえな、子供には、わかんねえよ」  そんなようなことを言って切ったんだったと思う。  そりゃ、わかるはずもないよな。  知らないんだもんな。    電話を切って、タバコを吸いながら、自分がやっていることってなんなんだろう、と思った。  このCMを作る上でおれがしていることは、動画の書き出しと、コーヒーを注ぐことと、お菓子を買うためにデパートに並ぶことと……。  何か、内容に関係するようなこと、しただろうか?  このCMが出来上がった時、おれは日和に、「おれが作ったんだ」って胸を張って自慢できるのか?  日和は言うだろう。 「すごい! 夢だったCM作ったんだね! 孝典さんはどんなことをしたの?」  おれはなんていう? 「コーヒー注いで愛想を振りまいてたんだ! いやー、これが大事な仕事でな……」  自分が作ったとも言えないようなもののために、毎日2、3時間だけ会社の椅子で寝るような生活を送って、何になるんだろう。
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