52人が本棚に入れています
本棚に追加
/211ページ
いつもの図書館。
外はさっきまで、夕立が降っていて、大きな窓を雨粒が大きな音を立てて打っていた。
すんでのところでここに逃げ込むことが出来てよかった。
雨には少し敏感になっているし、大雨はやっぱり苦手だ。
それでも雨が嫌いにならずに済んでいるのは、水沢のおかげだと思う。
今は、オレンジ色の晴れ間がさしている。
今日は、虹が出るだろうか。
ケータイが震えて、我に返る。
『奈良くん、やばいよ!』
吉野からのメールだった。
おれは帰り道に雨が降って来たから、ちょうど通りかかった図書館に入って雨宿りをしがてら勉強をしていたところだった。
やり取りしていると、どうやら、吉野はにしやんとたまたま駅で会って、一緒に雨の中を走って帰ったということらしい。
『西山くんとひなた、30歳までお互い相手がいなかったら結婚しちゃうって! 知ってた?』
いや、知らないけど、にしやんだって、そんなのわざわざおれに言わないだろ。
幼馴染だったら、よくあることなんだと思う。
って、分かっているのに、胸は苦しい。
吉野のやつも、そんなこと伝えてこなくていいのにな。
『知らなかった』
とだけ返す。
計算式を一問解いたあたりで、また返事がくる。
『ねえねえ、西山くん映画作ってるの知ってる? それに出演する人がいるみたいなんだけど……。白いワンピースが似合う人、だって』
映画のことは初耳だけど、その人には心当たりがある。
十中八九、水沢の姉ちゃんだろう。
『映画? 知らなかった。その人も誰か分かんないなー』
おれは、同盟の組みがいがないやつだな。
にしやんのこと何も知らないし、役立たずと罵られるかもしれないな。
と、自分で呆れているとまたケータイが震える。
『まじですか! 奈良くんも知らない情報をゲットしてしまった! やった!』
そっちかよ。
恋する乙女は無敵だ。
最初のコメントを投稿しよう!