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 昨日いきなり休日出勤を告げてくる社長のすまなさそうな顔、馬鹿な先輩のミスの尻ぬぐい、一人で作業をさせられる孤独感、そしてやってきたこの異常な猛暑。  神経をやすり掛けするような生きる事に伴う不満が泡と共に弾けて消えた。 「ッはー」  一息にコップの半分を飲み干すと艶を帯びた吐息が漏れた。  ふと窓の外に視線をやるともう完全に日が暮れて藍の帳が夜空に降りていた。だが蝉時雨が窓ガラス越しに微かに耳に届いてきた。  最近は夜になっても蒸すような暑さが変わらない。恐らくは今も外は地獄のような熱帯夜の様相を呈しているのだろう。  古の賢人は冬の寒さを思って夏の暑さを凌いだというが、俗人たる私に出来ることといえば冷房の効いた室内で外の酷暑を思い愉悦に浸るくらいだろう。  一息に残ったビールを飲み干すと先ほどよりも味蕾が開いたためかハッキリとした苦みの陰影が浮き上がらせた爽快感が稲妻となって胃の底まで落ちていった。 「はぁ~、って空きっ腹でこれ以上飲むと回っちゃうか」  冷蔵庫からつまみを取り出す。本日最初の肴、開肴一番はずばり枝豆。  とは言っても生の枝豆をゆでる根性は私にない。この暑さの中で茹でる作業など気が遠くなりそうだ。   これは昨晩、冷凍のものをざるに出して雑に塩を振って冷蔵庫の中に放置しておいただけのものだ。     
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