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 手早く購入した飲食物を冷蔵庫に入れた私はそのまま冷えたビールを喉に流し込みたい欲求をグッと堪えて先にシャワーを浴びる事にした。汗で下着までびしょ濡れになっている。今日一日の自分を労う夕餉の前にまずは一日の垢を落しておこうという訳だ。  一日着ていた衣服を洗濯機の中に放り込んで浴室に入った。シャワーの蛇口を捻って人肌よりやや暖かなぬるま湯を被るのは汗と共に体中にへばりついた不快感も排水溝へと吸い込まれていくような爽快さだった。  そのまま頭から全身を洗った。「掃除は上から」という母の教えが今も胸に残っている。  ナイロンタオルに石鹸を塗って全身の皮脂と垢を拭い取るのは小さな喘ぎが漏れるほどの快感だった。今日一日のあの烈日もこの快楽とのセットならばまあ、と思うのはきっと喉元過ぎれば熱さを忘れる人の愚かさゆえだろう。  まあとにかくようやく全身にへばり付いていたナメクジのような鬱陶しさはすっかり落ちてさっぱりした。  髪を乾かして楽な部屋着に着替えた私は冷房を効かせて冷蔵庫の前に立った。  中には昨日用意しておいた今日の夕食が入っている。そして先ほどスーパーで購入して冷やしておいたビールが。  真夏の夕餉、冷えたビール、おまけに明日は休日。それも他人にとっては憂鬱な月曜日の、である。  密やかな晩餐が始まる。さあ狂気のカーニバル開幕だ。     
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