友の死

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友の死

この場所に来たのは十年ぶりだろうか。  男は辺りを見渡した。都会のど真ん中だが、さすがにこの時間は人通りはまばらだ。しかも木枯らし、今にも白いものが、空から落ちてきそうだ。  暗い静寂が街を包んでいる。  今は午前二時をホンの少し回った頃、昔でいえば丑三つ時、あの世とこの世が通じる魔の時間とでも言おうか。物の怪、妖怪、悪霊、死霊、生霊その類と出会っても、文句の言えない時刻だ。  四車線の幅広道路に時折、車が猛スピードで走り抜ける。男は小走りでその広い道路を渡った。 バスストップがある。その時刻表の前に男は立った。  男は、その歩道沿いの店を見渡した。一軒だけを除いてシャッターはすべて閉まっている。明るく輝いている店はコンビニ店だ。  「確かコンビニの隣に二十四時間営業の喫茶店があったはずだが」男は目を凝らして見ると、その場所は駐車場に変わっていた。 すっかり様変わりしている。  「十年一昔か。よく言ったもんだ」  男は、そう呟き歩道を歩き始めた。 暫く歩いて街角を左に折れた。前方に地下鉄の出入り口が見える。   ガードレールに沿って洞窟のような暗い空洞がポッカリと口を開けている。  男はそのまま進んだ。        
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