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合格して、サクラサク。
このフレーズを最初に使い始めたのは誰なんだろう。
川島みずかは、頭上に咲き誇る桜の花を眺めながらそう考えた。
県立梅田高校の正門前に立つ二本の大きな桜は満開で、合格者を祝うように咲き誇っている。高校へと向かう道中に立つ桜の木々もきれいな花を咲かせていたが、それらが比べ物にならないほど圧巻の光景で、みずかは思わず立ち止まって見入ってしまっていた。
今日は、みずかが受験した梅田高校をはじめとした、公立高校の合格発表日である。桜の木々の間を抜けた先に立つ四階建ての校舎に、多くの受験生とその保護者達が向かっていく。校舎の玄関前に貼り出されている、合格者の受験番号の一覧を見に行くのだ。
みずかが高校に着いたのは十時半頃だが、十時から一覧は掲示されているため、もう人だかりができていた。正門を抜け、校舎へと歩き出す。進むに連れて、合格者やその家族の歓喜や驚きの声が聞こえてくる。一覧を見終え、校舎を後にする人々を避けながら進む。みずかの横をすれ違ったある男子は、ほっとした笑みを浮かべながらスマートフォンをいじりつつ去って行った。ある女子は瞳を潤ませ、母親に肩をさすられながら校舎を後にしている。
人と人との間をすり抜けながら、一覧の前へ辿り着いた。前にある人だかりが少しずつはけていく。やがてみずかは最前列に出た。受験番号を頭の中で思い出しながら、一覧の数字に目を凝らす。
182、183、185、…
みずかの番号はまだ先だ。
198、200、201、…
肩に力が入る。
208、209、211、212、214、…
「………ふう」
肩の力はゆっくりと抜けていくが、みずかの瞳はまだ「212」と「214」の間の僅かな白紙を見つめている。もう一度「208」から辿ってみるが、その隙間に先程まで無い三桁の数字が現れることはなかった。
隣に来た女子生徒はスマートフォンのカメラを一覧に向け、番号を写真に収めようとしている。そのようにする代わりに、みずかはもう一度その数字の羅列を見つめ、しっかりと脳裏に刻み付けた。
そうして振り返り、校舎を後にする。これから一覧を見ようとする、緊張した面持ちの人々に逆行しながら、雲一つ無く晴れ渡った空を眺めた。
落ちたんだな、私、とみずかは思う。
そりゃそうか。
名前しか書かなかったんだから。
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