10人が本棚に入れています
本棚に追加
比喩でも誇張でもなく、みずかは本当に名前しか書かなかった。
入学試験の全五教科。英語、数学、国語、理科、社会。そのすべての解答用紙に、みずかは自分の名前のみを書いて提出した。
問題の答えが分からなかったわけではない。分かってもそれを書かなかった。元々〇点を目指していた。みずかは〇点を取るために、そして高校に落ちるために試験を受けたのだ。
元々高校に進学したいという気持ちは無かったが、そのことを周囲の大人に打ち明けると、全員から反対された。特に養護施設の施設長である原塚さんには長時間にわたり説教されてしまった。一校でもいいから、何が何でも受験しなさいと言われ、進学したくない理由を自分なりに伝えてみても、その姿勢は変わらなかった。
しかし、みずかはそこで頭を働かせた。原塚さんは「受験しろ」と言いはしたが「合格しなさい」とは言っていない。要は「受験」すればいいのだ。ひねくれた考えではあるけれど、うまくやれば言い逃れは出来る。そこでみずかは、施設から交通機関などを使って一時間以内で通える高校の中から、公立で、しかもみずかの学力で現実的に合格できそうな梅田高校を「受験」することにした。中学校の担任からは妥当な志望校だと納得され、他の大人たちも誰も反対しなかった。勉強すること自体は嫌いでは無かったので、受験を決めてからも勉強に手を抜くことは無く、受験前と同じくらいだけの勉強をこなし、周りには勉強を頑張っていることをそれとなくアピールしていた。そのため受験当日、そして今日に至るまで、みずかの計画は誰にもばれていない。
最初のコメントを投稿しよう!