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男が距離を詰め、あと一、二歩でみずかに掴みかかるところまで来た瞬間を見計らい、みずかは男へ近づいて、右の脛に左足のつま先で蹴りを入れる。男が痛みで動きを止めた隙に、みずかは男の左腕の下を潜り抜け、そのまま右側によろめいて俯いた姿勢になる男の後頭部を、左肘で打った。立ち止まったままこちらを窺う金髪との距離感を確かめる。金髪のおおよその歩幅で測っても七歩以上は間隔が開いているので、すぐに攻撃されることは無いと判断し、みずかは地面に倒れた高身長の背中に跨り、両腕を持ち上げて男の背面で締め上げた。
「いだだだだだだだだだだだだだだだだギブギブギブギブギブギブギブギブギブギブ」
高身長は悲鳴を上げている。みずかは背を向けていた金髪の方へ、顔だけ振り向いた。
金髪は参った、という風に両手を上げ、「離してやってくれないか」と言った。
高身長の腕を放し、そっと離れて二人から距離を置く。高身長は「いってえ」と言いながらゆっくりと起き上がり、「大丈夫か」と声をかけた金髪に「はい」と返した。
「確定しましたか」と高身長が小声で言う。
「いや」
「そんなことって」
「ああ、今まで無い。でも持っていることには変わりない」
「それで良いんですか」
みずかを置き去りにしたままで、二人の会話は進んでいく。
「あの」みずかはたまらず口を開いた。「どちら様ですか」二人が何のことを言っているのかは分からないが、自分に関係のない話であるはずは無い。
金髪はみずかを一瞥すると、スーツの内側に右手を入れる。みずかは一瞬身構えるが、金髪の胸ポケットから出されたのは名刺入れだった。その中の一枚を取り出しながら、みずかに近寄る。
「浅香さん」
高身長の呼びかけを無視し、金髪は名刺をみずかに差し出した。
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