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「回りくどいなってしまって、すまない」
みずかは名刺を受け取る。そこに印刷されている肩書らしき漢字の羅列は、難しい単語ばかりで、意味をすぐには拾うことが出来ない。名前は『浅香 享』とある。
「何の用ですか」みずかはますます混乱する。
「見ただけでは分からないだろうな。簡潔に言う。君を雇いに来た」
「雇う?」
「ああ」
状況を飲み込めず、みずかは前に立つ、浅香というらしい男の表情を窺う。前髪の隙間から覗く目は大きく、予想する年齢より若い印象を受けるが、瞳は囲碁の黒石のように鈍く光っている。
「悪い話では無いと思う。高校に落ちて、仕事が欲しいところじゃないか?」
「…そのこと、どうして」
「一通り君について調べさせてもらった。事後報告になってすまなかったが」
悪徳商法、インテリやくざ、不正アクセス。物騒な言葉がみずかの頭の中をよぎる。意味不明な状況のはずなのに、しかしみずかは冷静だった。聞きたいことは山ほどある。
「どうして私なんですか」
「君が特殊な能力を持っているからだ」
浅香の後ろで様子を見守っていた、高身長の表情が険しくなった。
「心当たりは無いかい」浅香は感情を露わにせず、淡々と尋ねてくる。
「特殊っていうのは」
「通常の人間では持ち得ない、とでも言い換えようか。例えば君がさっき米蔵、この男を倒したことに、何か関係していないか?」
「…何か?」
「自覚が無いパターンか」浅香の眉間に皺が寄る。右手を顎に持っていき、少しの間考えるポーズをとった後、「質問を変えようか」と言った。
「君はどうやって米蔵を倒した?」
「どうやってって…」先程からピンとこないことを尋ねられてばかりだ。質問攻めにしたいのはこっちなのに、とみずかは思う。
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