紅葉

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祖父の家には先祖代々残っている昔のものが多く、たいていは農作業道具だったのだが、それまで見たことのない道具は僕にとっては不思議で面白い道具だった。なかには実際に動かすことのできるものもあり、おもちゃ代わりに遊んだこともあった。子供にそんなことをさせるくらいなのだからたいして価値のあるものではなかったのだろう。 ただし、刀だけは別だった。詳しいことは教えてもらえなかったが、祖父の家には一振りの刀があった。一度だけしか見せてもらったことはなかったのだが、その頃の僕は刀よりも農作業道具のほうが楽しかったので、特に見せてほしいとせがむこともしなかった。 あとになってから知ったのだが、この地には落ち武者伝説というのがあって、落人を匿ったという話が伝わっている。ひょっとしたらその刀はそういう曰くのあるものだったのかもしれない。 祖父の家に着いて早々、すぐに僕は風邪を引いて寝込んでしまった。数日後、熱は下がり、でもまだ鼻水は止まらずグズグスとしていたが、外に出て遊べる程度には回復した。 遊んでいて、気が付くと目の前に大きな木があり、そしてその木の葉っぱは鮮やかな紅葉だった。その紅葉のある場所がどこだったのかは思い出せない。 しかし、幼稚園の頃の僕にそれが紅葉だったとわかるはずもない。そもそも紅葉というものがどんなものなのか知らなかったのだ。 真っ赤になった葉を見てたたずんでいた僕のうしろから、耳元に声がした。 「あれは、紅葉だ」 祖父の声だ。 振り返ると祖父がいた。 祖父の体にも一面、紅葉が張り付いていた。     
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