第3章

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 狭い部屋の一番奥の壁にくっつけてあるベッドで、悠人が中途半端に服を着たまま女を抱いていた。二人は私に気付かないで、盛りのついた野良猫のように抱き合い、耳障りな声を挙げていた。  その時、私の中で沢山のものが音もなく崩れ落ちていった。タバコ臭い部屋に吐き気を覚えた。 「いやぁぁっぁぁぁぁ!!」  無意識に叫んだら、絡み合う男女が動きを止めて私に振り返った。四つの目が私に注がれる。悠人が血相を変えて、女から離れた。その時、ピンク色のコンドームが滑り落ちて、使い物にならないソレが下を向いてしぼんだ。女は全裸でただ、驚いてぽかんと口を開けている。 「もえ?! なんでここに?!」  間抜けな声。妙に可笑しくて、つい笑ってしまう。 「……もえ、いつからここに…いたの……?」  恐るおそる近付いてきた悠人は、もう私が知ってる悠人じゃなくなってしまった。良さも悪さもわからないぐらいに、見知らぬ、軽薄な男―――。 「あ。たった今来たんだけど、帰るね。お楽しみを邪魔してごめんなさい」  私は、驚くほど冷静に彼女に謝って、悠人を無視した。逃げるように部屋から出てエレベーターのボタンを押す寸前、背後から抱きしめられた。息を切らした悠人の甘ったるい香水の匂いとタバコの香りに、また吐き気を覚えた。 「待って! これは、出来心だよ! 俺が好きなのは、お前だけだから!」 「もう終わりだよ…。こんなことになるなら、来るんじゃなかった……」  低い声、早口でつぶやいたら、悠人は私の肩を掴んで自分に向かせようとした。でも、私は思い切りありったけの力を込めて振り払い、代わりに右手で彼の頬を平手打ちにした。  パンッ、と大きな音がマンションの廊下に響き渡る。
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