第4章

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 周囲の人達の優しさと理解に包まれて、私は今、悠人と二人で住んでいた世界よりもずっと優しい世界にいる。あんなことが起きて、散々生きるか死ぬか迷って、今もこうして生きていられるのは、周りの優しさもあるけど、何よりも新しい彼の存在のおかげ。  今度こそもう、彼なしでは生きていけない。私は人生で、二度目の恋をしている。  お腹にこの子がいると気付くまでは、本当の地獄だった。何度、手首を切ったかわからない。左手首から肘にかけて、びっしりと薄い線が刻まれている。これは、苦しみ抜いた証。  自分を、さっさと死んじゃった悠人をどうしても許せなくて、謝りたくて、謝って欲しくて、お互いの名前を呼び合いたくて…。  裏切られたと思ったことが彼を追い詰めたのなら、彼が飛び降りたのは、私の罪。だけど、今こうして彼が私に残してくれた尊い命のおかげで私は、生かされている。  悠人に対する気持ちは未だに複雑で、自分でも持て余している。なぜ、彼はあの日浮気をしたのだろう。泣いてくれたら、良かったのに…。私を呼んでくれていたら…。  どんなに悔やんでも、彼はもう生き返らない。最期の一時間を消して、やり直せたら良いのに。彼の匂いに嫌悪した感覚は気の迷いだったと訂正できたら良いのに。死んじゃえって叫んだ自分の愚かさも、他に何て言えば良かったのかと、ずっと、正解を、探している。  
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