第1章

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 ピンク色の指先、小さな爪、皺々の肌だけど瑞々しくて、大きすぎる頭が小さく動いては、透き通った瞳で何かをジッと見つめる。口を開け、力が入ったその瞬間から真っ赤になって、声も涙も後からやってくる。それはか弱いくせに力強い泣き声で、私を釘付けにした。  白い産着を着せようと、お人形のように細い手首を迎えに行って、白く清らかなトンネルを潜り抜けた彼は、次の瞬間小さな声を漏らして呑気にあくびをした。握るものを探すように手を開いては閉じるゆっくりとした仕草は、いくら見ていても飽きそうにない。二つの手のひらの中に納まってしまいそうな小さな身体は、とても暖かい。まだ薄い皮膚の下で這いまわる赤い糸を見つめて、目を閉じて耳を寄せると、大人とは全然違った心臓の鼓動が聞こえる。  この世に生まれてきたことを、祝ってあげたい。だけど、私は喜びと同じぐらい先が見えないことを恐れている。この子には父親がいない。私が一人で育てていく。決意したはずの強い想いが、ほんのわずかな衝撃で脆く崩れ落ちてしまわないか、自分を信じられず足が竦む。一人で生きることも出来なかった私が、一人で子育てなんて出来るわけがない。だけど、もうそんなことはどうでもいい。肝心なのは今どうするかであって、過去の私なんか要らない。
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