回帰

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 それでも何とか一年目の奨学生審査を突破し、安堵した矢先、事態が急変した。  地元の役所からの支援が切れたのだ。なんの間違いかと恋人と怒鳴り込みにいったが、結果は変わらなかった。何時間も担当を名乗る職員やその上司と話したが、誰と話しても丁寧にかつ遠回しに、お前は若くて自立出来る年齢なのだから自分で介護しろ、努力が足りないと言われるだけであった。  あらん限りの呪詛と脅迫をぶちまけ、業務妨害として警察を呼ばれる寸前のところで、泣いて止める恋人によってその場は諦めた。  その日は家に戻った後、恥ずかしい、何であんなことを言ったのかと喚く恋人と意味不明な言葉を連呼する母親を殴って黙らせた後、夜が明けるまで自室で泣くことしか出来なかった。  手当ても勿論だが、何より介護が打ち切られたことが大きかった。極端な話、俺が目を離した隙に母親が死ぬだけなら歓迎すべき事態だが、万が一火事でも起こされれば莫大な借金を負う可能性すらあるのだ。  仕方なく、家を出るときは常に母親を縛りつけることになった。それを見た恋人に騒がれても面倒なので、家で会うことも止めた。もっとも、この頃になると大学とクズの誘い以外で恋人と会う機会はほとんどなくなっていたが。
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