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俺は、なぜこうなった。前世よりもずっと頑張って、ずっと努力したのに。なのになぜ、裕福に生まれただけのあのクズが、あんな風に幸せそうにしている。あれは本来、俺が得るべき幸せなのにっ!!
そうして怒りで震える俺の視界に、一台のトラックが入る。それは俺が入る時に利用した配送業者のもので、荷卸し中なのか、運転席には鍵が刺しっぱなしで人の姿はなかった。
ーー返せ。
それを見た俺の判断は早かった。飛び付くように運転席に潜り込むと、どこかから聞こえる制止の声を無視してトラックを走らす。運転免許は当然持ってないが、ここに来て前世の記憶が役に立った。
ーー返せっ!
行き先は当然チャペルの入り口。なんの巡り合わせか、ブーケトスでも行われるのか客たちの後から新郎新婦が今まさに外へと出たところだった。
ーー返せぇぇぇぇっっ!!
その姿を捉えると共に、全力でアクセルを踏みしめる。もはや俺にすら止められないスピードの中、トラックは真っ直ぐにクズの所へと進む。
その時、不思議なことに全ての光景がコマ送りのようにゆっくりと感じられた。だから俺はハッキリと分かった。
迫るトラックに逃げ惑う客たちの姿を、恐怖のあまり目を瞑る新婦の顔を。そして、目の前の出来事にあまりに不似合いな笑みを浮かべる新郎が、最期に言った言葉を。
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