胸の奥の枯れない花

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「あんたらも、はよ登って来いや。遅れたら姉ちゃん、怒るで」 姉ちゃんは白いコンクリートの壁に思いっきり両手をついて登り、胸に付いた砂を手で払いのけながら、そう言った。 大阪のとある小さな田舎町。 その市境の田畑に囲まれた狭い一戸建ての借家。 そこで僕は、生まれ育った。 傍らの高速道路の騒音は昼夜、ひっきりなしに空にこだました。 小学校の低学年だった僕は、底が今にも崩れそうなベランダにバランスよく立ち、稲刈りを終えた広大な荒れ地と小さな公園、そしてたくさんの同級生が住む新興住宅地を眺めた。 僕と仲の良かった町田の家もそこにある。 彼はスポーツ万能で明るくて、いつも一緒に遊ぶ仲だ。 しかし、僕と町田の仲に割って入ろうとする邪魔者がいた。 名字は坂口。下の名前はトシだったか。 学校で見かけたことが無いので、多分上級生だったのではないだろうか。 町田は僕の代わりに、その坂口と遊ぶようになった。 3人で遊ぶこともあったが、なぜか坂口とは気が合わなかった。 彼は目が大きくて、若干顔の中央に目が寄っている。 それが気に食わなかった。 もちろん、大人になった今では、そんな顔の特徴など何も気にしない。子供ならではの粗野な感性だったのだろう。
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