俺の

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俺の

蝉が鳴り響く。 その声は暑さをより促すように感じられた。 太陽の熱が降り注ぐ道路。 下からも太陽の熱が来て、倍暑い。 人通りが少ない道を、俺はゾンビのような足取りでトボトボと歩いていた。 行き先などない。 ただ、"探し物"をしてるだけだ。 炎天下。 汗が頬をつたって下へ落ちた。  俺は、筋肉のついてない細く、白い腕で汗をぬぐった。 「あちぃ…はぁ…」  足は止まるのを知らないように歩くのを止めない。 景色は次々と変わっていく。 知らないビル、知らない家。 知らない人に知らないにおい。 俺が住んでいる町なのに、なにもかも知らない。 ビルの鏡張りになった壁に映る黒髪の男は、死んだような黒い目をして見つめてくる。 田野(たの) 綾都(あやと)、17歳。 壁に映っている男は、俺だ。 だけど、俺じゃなくて他人を見てるようにしか思えない。 いつ見てもしっくり来ないのだ。 鏡を見るたびに驚くのは、もう慣れた。 「くそっ…なんなんだよ!」 俺は鏡に映った(じぶん)に向かって拳を強くぶつけた。 握った拳がヒリヒリする。 よく見ると、変な風にぶつかったのか少し切れて血がじわじわと出てきていた。 なんで俺がこんな目に… 俺は苛つきながら、また歩き出す。     
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