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「うわぁキレイな場所ー!」
「泳ぎたーい!」
「ねえ、知ってる?この浜辺って夏になると人魚が現れるんだって」
いつしかそんな戯言が囁かれるようになった。
きめの細やかな砂浜に、透明度の高い海水。
ゴミ一つなく穏やかな海流の海岸なのに、誰一人として泳ぐ者がいない。
「人魚?会ってみたい!」
綺麗に整備された、美しい浜辺。
太陽光を反射して誘う波が季節を感じさせ、心踊らせる。
「襲われるかもしれないよ?」
「え?」
「その人魚ね、人になりたくて人を食べるんだって」
通り過ぎる[人]の姿を、波間の影からそっと伺う。
「海に入ってくるのをじっと待ってるらしいよ?」
───後どのくらいの[人]を喰らえば良いのだろう。
季節は巡る。
また水温が高くなり、[人]が涼を求めて水と戯れるのを、私はじっと待つ。
後、少しなんだもの。
後、ほんの少し……
そう願いを抱え両目を潤ませる。
~fin~
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