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抵抗もせずに流れるままに流れている彼はざっぷんと、脈を打ち続ける魔物を視ていれば徐々に魅入られていた。闇は光があってこその闇であり魅入られていく内に彼は月光で"それ"が綺麗なモノに視え始めた時、彼女の方から浴衣が擦れる音に加えて砂が鳴く音が聞こえた。慌てて我に返った青年は丘に瞳の中から闇を追い出しせいか少しばかり世界が黒く見え、彼女が纏うモノが一層光って魅えた。
好きやったんよ。
彼女の跡を追えば左足から踏み出していた。その左足から彼女の行き先はきっと手持ち花火の屑が入ったバケツなのだろう。
彼女の右手でぐったりしている線香花火の紐は振られるがまま、されるがまま。彼女は感情一つ面に出さず立ったままで右手を少しばかり振り上げバケツの中に深緑の紐を浸し呟く。
でも、愛じゃなかった。
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