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人前で商人が涙を流すものじゃない。弱い姿を見せたら相手に負けるんだ。
けれど力強い手に引き寄せられ、ポンポンと頭を撫でられるともう止まらなかった。
「嫌われたかもしれないって、手紙出した後に後悔して」
「嫌わねーよ」
「脅した」
「それは反省しろ」
「うん」
少し怒ったのかもしれない。でも来てくれた。それで良かった。
その時、グウゥゥゥゥゥゥゥッという獣の低い唸り声のような音がする。驚いて涙は止まった。距離があいて、音の出所を見る。逞しく割れた腹筋の奥から、またグウゥゥゥと音がした。
「……だよね」
「言うな」
「ははっ、やっぱグリフィスさん好きだな」
この状況でぶち壊しの腹の虫。赤面したグリフィスに笑い駆けて、リッツはグリフィスを席に誘った。
飾らない料理を選んでみた。鶏のグリルはブラックペッパーで。パスタもペペロンチーノ。デザートは果物を使ったゼリーにした。肉の脂がさっぱりとするレモンのものだ。
それにしても食べっぷりがいい。前も思ったが、グリフィスはとても良く食べる。主に肉が多いが、何気に炭水化物も。
そこを指摘すると「お前は食わなすぎる」と言われた。ただの商人がその量を食べると、確実に太ると思う。
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