第4章『神曲』

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第4章『神曲』

 機神軍の陸海空師団長が、人間と接触して機神の脅威を示してから数年後───永久氷河の地に、奇妙な電波の発信源を探る調査隊がやって来た。  調査隊の隊長は、軍人らしからぬ柔軟な思考の持ち主で、軍部内では変わり者と称されている『狩摩断』〔かるまだん〕だった。 「階級なんざ、単なる飾りさ」  そう豪語して、あまり自分の階級や肩書きには固執していない。  一応は大尉の肩書きはあるのだが、下位階級とも気さくに接する 人柄もあり。下の者からは慕われている。  吐く息が白く見える地に立った断は目の前にある氷河の洞窟入り口を、金属の保温容器から注いだコーヒーを飲みながら同行する学者に訊ねた。 「あの洞窟が、信号の発信源か?」 「そうみたいですね、断続したパルス信号が発信され続けています」  数週間前から、その奇妙な周波数の電波は未知の脅威に対抗するために設立されたばかりの、特殊防衛機構『アポクリファ機構』本部に向けて発信されていた。  狩摩断は、そのアポクリファ機構の司令官候補の一人だった。  洞窟の入り口を眺めていた断が、パシッと掌に拳を打ちつけて言った。 「おもしろくなってきやがった、いったい何がオレたちに接触を求めて、信号を送ってきたのか見てやろうじゃないか……オレが先に洞窟に入って安全かどうかを確かめる」  そう言うと断は、洞窟に飛び込むように足を踏み入れる。  直後、断の足下の氷が崩れポッカリと空いた縦穴に断の姿が消え。  穴の中から「痛てぇ!」と唸る断の声が聞こえた。  断が落ちた穴を覗き込んで、心配そうな声を掛ける隊員の一人。 「大丈夫ですかぁ」  穴の中から聞こえる断の声。 「大丈夫だ、安全は確認された。おまえたちも下に降りてこい、すごい光景だぞ」  隊員たちが、安全な方法で降りていくと、そこに別世界が広がっていた。  スノーブルー色の空洞に巨大な氷の円柱や円錐が林立や交差するように生えていた。  デジタルカメラで撮影しながら断が呟く。 「気が遠くなるほどの歳月をかけて、自然がこの絶景を作り出したんだろうな」 「信号はさらに洞窟の奥の方から発信されていますね………より強い信号になって、まるで我々を呼び寄せているようです」 「呼んでくれているのなら行くしかないだろう」  スノーブルー色の空洞を進む調査隊、断は半年前に南氷洋に突如出現した水グモ型の機神のコトを考えていた。  すでに『機神』という呼び名が、遭遇して生還した数名によって伝えられ各国の軍部内では広がっていた。  水グモ型の機神は、口から炎を吐き、硫黄混じりの雨を降らせ、強靭なクモの糸で物体を切断する機神だった。  迎撃で出撃した国連戦闘機隊の攻撃にも、無傷で戦闘機一機を炎で撃墜すると海中に没して姿を消した。  調査隊は空洞深部の空間に到達した、そこには三階建てのビルほどの高さがある人工知能機械が半分ほど氷に埋もれた形であった。  人工知能の傍らには、人間が一人収まる程度の円筒型をした、強化たんぱく質カプセルが半壊した状態で放置されていた。  断が屈んで、何がが内部から出てきたように表面が溶けて穴が空いているカプセルを調べていると。  隊員の一人が、幽霊でも見たような顔で悲鳴を発した。 「今、何かそこの物陰で肌色の何かが動いて!」  断が隊員が指差す方向に目を向けると、ネフィリムの後ろから人間年齢だと中学年くらいの、全裸の黒髪美少女が現れた。  黒髪の美少女が言った。 「待っていた………信号を受信した人間が訪れるのを」 「君は?」  黒髪の少女は、人工知能ネフィリムの表面を擦りながら断の質問に答える。 「あたしは人類守護人工知能のネフィリムが人工たんぱく質を合成して作り出した人類へのメッセンジャー」 「作り出され? 母親と父親は?」 「生物学的な意味での肉親は存在しない、あたしの遺伝子情報は世界中の誰とも合致しない………あえて母親と位置づけするなら、あたしを作った人類守護人工知能の『ネフィリム』が母かも知れない」 「メッセンジャーと言ったな、人類に何を伝える」 「人類絶滅人工知能『メタトロン』の機神天國が行う審判の日に備えて、人類が生き延びる方法を………【セフィロト】計画を発動しない限り、人類は滅亡する」  少女が語ったセフィロト計画を聞き終わった断が、少女に言った。 「その計画を実行する為には、君と君の母親のネフィリムがここから外に出て、アポクリファ機構本部で政府のお偉いさんを説得するしかないな………一緒に来てくれるか」 「それを、ネフィリムも望んでいる」  「君の、名前は?」 「ネフィリムからは『イヴ・アイン』と呼ばれている」 「いい名前だ、とりあえずここから出る前に最初にすべきコトは」  断は自分の脱いだ防寒着を裸のイヴに着せる。 「氷の中に裸でいる少女の裸体を隠すコトだな」  上着を着せられたイヴ・アインは、不思議そうな顔で狩摩断を見た。
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