水色の眼鏡、真珠色の瞳、茜色のレンズ

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 「かすみ!起きる時間よ!」  重たい瞼をゆっくり開くと、目の前には鼻息荒くした仁王様がいた。  「なんだ、お母さんか」  「なによ、その言い方は。寝ぼけてないで早く起きなさい。遅刻するわよ」  母に叩き起こされ、私はねぼねぼとベッドから出た。  洗面台で顔を洗い、鏡に映る自分を見つめて、瞳に鎧を纏う。  ぼやけた視界が、恥ずかしいくらい鮮明になる。  鏡に向かって、無理に口角を上げる。  「大丈夫。今日も戦える」  学校という小さな世界で、身を守るための大切な武器。  コンタクトレンズは、私に新しい世界を見せて、新しい自分になれると教えて背中を押してくれた、大切な相棒なのだ。  そして、制服を着る。眼鏡の私を部屋に置いて。  リビングでさっと朝食を済ませて、歯磨きをする。  よし、これで準備万端。  時は満ちた。さて、今日も日常という戦場を駆け抜けようじゃないか。  ゆくぞ、かすみ!  「いってきます」  「いってらっしゃい」  勇敢な武将の気分で自転車に跨り、駅へと向かった。  風に吹かれ、セーラー服のスカーフと髪の毛がふわりと宙を舞う。  日差しに、夏のじりじりとした暑さが滲む。  だけど、風は乾き、ひんやりと冷たかった。  もうすぐ秋か、ふいに胸が弾んだ。  駅に着き、いつもの電車に乗る。  通勤ラッシュの車内は、季節関係なく熱帯夜のように蒸し暑く、気持ち悪くなりそうなほどだった。
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