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空へ
海までは五キロ程のところまで来た。
高速を降りてから暫く走り続けると、民家も減り街灯もまばらになっていた。
窓を開けたらおそらく潮の香りが漂ってくるのだろう。
後ろにいる彼らはバイトと女の話で尽きることなく賑わっている。
緩い缶コーヒーを一口含み眠気を紛らわした。
暫く走り短いトンネルを抜けると、ガードレールの向こうに黒い波が幾重にも立っているのが映った。
十分な幅の路肩を選び車を止めた。
誰もいない砂浜に男四人が踏み入る。
「女はいねーな」
悠太が言った。
「そりゃいねーよ。暗えもん」
敦史が返した。
波が誘うようにさわさわと砂浜に届く。
遠くの方に明かりが灯ったような気がした。
その方角を眺めると二つ三つ花火が上がっていた。
弧を描くように湾になっているので、向こうの方で打ち上がる花火が見えた。
「お、花火が見えるぜ」
拓也が自分より先に言った。
「あれ、二三百キロ向こうじゃない?」
「それは陸を走っていった場合の距離だろ?」
「直線なら百くらいか?」
「それでも百あるか?」
穏やかな波音の向こうに、花火が幾重にも開く。
その下には沢山の人で賑わっているのが想像できた。
そこへ行けば浴衣姿の女もどれだけ沢山いることか。
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