第1章 エンゲージ

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第1章 エンゲージ

 5年後 レイヴェン公国北部 エーデルストレム県ノルト・ヴェルグ空軍基地 ブリーフィングルーム  学校の教室を連想させる空間に、数人の飛行服姿の者達を前に、制服姿の気象士官がブリーフィングを行っている。  ホワイトボードに張り出された複数の大きな紙に、気象図、空路等様々な情報が書き込まれている。 「以上がエリア“N”のウェザー状況だ。何か質問は?」  誰一人として手を挙げるものは居ない。ブレイクの指示が出され、他の者がブリーフィングルームを後にする。 「ソーン、行こうぜ」  TACネームで呼ばれる。相棒の高山 ヴァシリー。TACネーム、クルィーク(牙)。今日のフライトの編隊長だ。 「メモぐらいゆったり取らせろよ」  軽く文句を言いつつ席を立つ。フライトまでは30分有る。クルィークはニヤリとだけ笑い、何も返さない。  俺達二人は、ブリーフィングルームに隣接している装具室へと向かった。ドアを開けると甲冑の様にズラリと並べられた飛行装具。  部屋の端にある「THORN」と書かれた装具の前で止まる。俺の空での鎧だ。カーゴパンツ状の耐Gスーツを取り、サイドジッパーを開け、着用した。空で如何に荷重が血液を下へ押し下げようとも、こいつが圧迫してくれる限りは、ある程度大丈夫だ。続いて、ハーネスとライフ・プリザーバーの以上の有無を確認、大丈夫そうなので着用。最後に白いヘルメットとマスクを点検した。こいつも問題無し。  拳銃と2弾倉を受領、問題は無いはずだ。  受領するもの全てを確認し、その場を去ろうとして、左腕のパッチが取れ掛けていることに気付いた。黒地の三角形に銀色の戦闘機のシルエット。青地で“MiG-29AM FULCRUM”の文字。そいつに一瞥をくれて定位置に貼り直す。10メートル先にクルィークが俺を振り返り、立ち止まっている。  “Ok”  親指を突き立て、知らせる。  俺達は飛行隊庁舎のプレハブを後にした
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