第2章 ティガー

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 昼のDACTを思い出す。実戦なら間違いなく俺達は格闘戦に入る前に戦死していた。少なくとも、自分たちも実戦経験もあるし、それなりの錬度を持っている。ましてや、お互いにデータリンク等の友軍との情報共有無しでやり合った。こちらもデータリンクが有れば勝てたかもしれないし、向こうにデータリンクが有れば更に状況は悪かっただろう。個体能力で勝てる時代はとっくに終わりを迎えている。 「飛行技術に優れる後輩の指導とか、やりにくいことこの上無いな。」  戦場の空には狩る者と狩られる者しか居ない。強さこそが全てだ。狩る者としての素質が高い後輩の登場は嬉しくも有り、同時に複雑だった。 「ご機嫌麗しゅう、僕の女神様。今日もとても美しい」  周囲から聴こえる歯の浮くような言葉や、カップルの会話と対極に、俺達の表情は浮かない。ほどなくして、料理が運ばれてくる。いまからがブリーフィングのスタートだ。  翌日 ブリーフィングルーム  ガチャッ  ドアを開くとそこには白髪の少女が先に居た。 「おお、イルビス。早いな何時から?」 「おはようございますクルィークさん。つい30分前からです。」  昨日は制服だったが、今日はオリーブドラブの飛行服に身を包んでいる。       「勉強中か?熱心だな。」  ノートにペンを走らせている。マニューバ(飛行機動)らしき線と、注意点のキリル文字が書き込まれている。 「ソーンさんはご一緒では無いのですね。」 「ん?まあね。」  別に俺は0800に3人集合とは言ってない。  荷物を置き、メモ帳、筆記具と、飛行ルートが記入された空域図を取り出した。 「これが今日のルートな。今日はL-39(練習機)で飛ぶ。後席に俺が座るから。」  複座型フランカーはこの基地には無い。首都防空隊と機種転換部隊にSu-30SMは有るが・・・。 「まぁ、初めての空。一人で飛ばさせるのはまだ恐い。同行者ありのドライブと思え。」
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