第2章 ティガー

8/30
前へ
/319ページ
次へ
 エプロン地区  飛行装具を装着し、エプロンを歩く俺達。真横のイルビスは、既にメットを被り、バイザーを下ろし、マスクを装着という肌を一切露出させない状態だ。アルビノという体質のせいだ。色素を持たない彼女の身体に、太陽光は余りにも有害過ぎる。 「お願いします!!」  L-39の機付長に敬礼し、申し送りを受ける。普段連絡用や、ちょっとした飛行訓練用に運用している練習機だ。60年近く前の設計の機体ながら、信頼性、運動性全てが一級品だ。  申し送りを受けた次は、操縦士自ら行う外部点検。整備士が最高の状態を維持してくれて居るのだろうが、結局最後に飛ばすのは自分自信だ。全体をくまなく見て回る。 「よし、OKだ。さて、乗るか!」 「はい。」  イルビスを前席に乗せ、後席に座る。イグニッション・スタート。  シュィイイイイイイインー  甲高いタービン音、アルバトロスの名を冠する怪鳥が眼を醒ます。MiG-29のような勇ましさを感じさせる目覚めとはまた違った趣が有る。単発機だけあり、立ち上がりからミリタリーに入るまでが速い。 「ヴェルグタワー,ティガー01.クリアーフォータキシー」 ≪ティガー01,ヴェルグタワー.ウィンド090アット3.エンドに入ったらそちらのタイミングで上がれ.ランウェイ07,クリアードフォー・テイクオフ≫ 「ランウェイ07,ティガー01,ラジャー」  タキシングし、ほどなくして、ランウェイに入る。 「イルビス、ユーハブ・コントロール。普通に離陸しろ」 「ーアイハブ・コントロール。了解しました」  操縦桿とスロットルから手を離し、前席のイルビスに操縦を任せる。現在ランウェイ上、オレンジ色のセンターラインに機軸を合わせた状態で静止している。  足の間の操縦桿(スティック)が勝手に動くと同時に、舵面が動く。最後のチェックか。  キィイイイイイイイイイン!!  エンジン音が高鳴ると同時に加速により生じたGが、身体をシートに押さえ付ける。エンジン回転数と速度計が上昇する。  230・・・240・・・250・・・  250キロに達した時点でイルビスが機首を引き起こした。ピッチ15度。軽やかに機体が浮く。ギア、フラップ共にアップ。下界が小さくなり、背中に遠ざかる。ファルクラムに乗ってるときはなかなか見れない。  視界には蒼が広がっている。
/319ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加