第2章 ティガー

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 ノルトヴェルグ西方70キロ フィヨルド   「アイハブ・コントロール」  「ユーハブ」という前席からの返事と共に、スティックを握る。現在、フィヨルド上空3000フィートの高度で飛行している。前席のイルビスに指定した方位、高度で操縦させていたが、ここでコントロールを貰う。  グルンッ  天と地が裏返り、視界が薄暗くなる。  180度右にロールさせ、完全な背面姿勢になった。ゆっくりとスティックを手前に引いた。緩やかに降下していく。  エアブレーキ、展開。青い入り江の海面が徐々に迫る。  グルッ  再び天と地が入れ替わった。空が頭上に、海面と峡谷が下になる。  緩やかにスティックを引き、機体が水平になった。対地高度100フィート(約30メートル)。スレスレと言っても過言ではない。 「イルビスはNOE(地形随伴飛行)は初か?」  「ーはい。初めてです」  声音からも緊張が感じ取れる。  対地速度350ノット。操作を一歩ミスったらあの世に行けるだろう。だが、マルチロール機であるSu-35Sを扱う以上、必修科目と思ってもらいたい。 「ユー・ハブコントロール」 「え・・・・・・」 「心配すんな。ヤバくなったら、強引に修正してやる。急には動かすな。細かく、丁寧に。流されるかもとか思ったら、ちょこちょこ修正しろ。半量修正だよ」  半量修正ー実際に必要と想定される修正量の半分だけ修正をし、それを繰り返す。ヘリコプター操縦で大切な事だが、低空飛行中の固定翼機にも同じことが言える。 「あ、アイハブ・コントロール」  手を離した。おずおずとスティックを握っている事だろう。 「ピッチを5度くらいで、峡谷に沿うようにゆっくりとライト・ターン・・・ナウ!!」  合図と共に、機首が持ち上がる。ゆったりと右に傾くと同時に緩やかなGが掛かった。先日のドッグ・ファイトとは打って変わって丁寧に丁寧に緩やかな操縦。若干不安気な気もするが、やっぱり筋は良い。何の問題もない。 「ーッ」  海面に太陽光が反射し、白い光が飛び込んでくる。機の新路上に遊覧船が見えた。  緩やかに左に切り返す。白い小さな遊覧船が機首の下に隠れて消えた。コースをうまく反らしている。 「初心者の割には上手いな。センスが有る。そのまま3000まで上昇。ピッチ15。」  「はい」という返答と共に緩やかに持ち上がる機首。
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