第2章 ティガー

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 3000フィートに差し掛かる手前でピッチを小さく修正していく。ぴったり、3000で水平になった。上手い。 「左見てみ?」  フィヨルドの遥か向こう側に広がる雄大な山脈。急峻な山々の頂は白く染まっている。 「レイヴェン・アルプス。あの山脈の向こうはアルフィリオだ。」   山脈の向こう側の敵国。だが空は2つと無く、全て繋がっている。 「ー綺麗・・・」 「だろ?これが俺達の空だよ。」  感嘆の声を漏らす後輩に、先にこの空を闊歩する者として、少し得意気に返した。 「ーさて、現方位、現高度を維持。しばらくこのまま道なりな」  SIDE “ソーン”    ああ、ツイてない・・・・・・。 「聴こえとるで?なんか有ったんか?」  口に出てたか。 「イルビス、やっぱエエセンスしとるわ。お前ら、油断したらアカンで?ACMで勝てんようなったら、先輩としての顔立たんやろ」 「傷エグん無いで下さいよ・・・」  いやもう、本当にツイてない。何がツイてないって、このおっさんの後席に座らされてる事だ。  俺は今、オレンジと黒の虎縞の馬鹿に目立つMiG-29UBの後席に座らされてる。隊長の愛機、MiG-29UB練習複座型ファルクラム、シリアルナンバー1632番、通称「トラちゃん」。連絡機兼練習機だが、あまりにも使い道が無いため、隊長が好きに使っている機体。 「アイツとやった感じはどうやった?」 「・・・・・・機動にはまだまだ無駄が有りますが、優秀です。でなければ、クルィークが殺られはしません」 「せやな。ま、お手並み拝見や。」  前席で隊長が、舌なめずりしたような気がした。 「よう掴まっとけや?」 「イジェクト(脱出)して良いッスか?」 「アカン」  ・・・・・・やれやれ。いよいよ遺書が役に立つかな?  鼓動が昂る。興奮などではない。恐怖と緊張だ。嫌な汗が滴った。  
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