第2章 ティガー

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「イルビス、バイザー下ろせ」  紫外線が遮断され、視界が暗くなる。前方に黒煙。ファルクラムが2基装備するクリモフRD-33エンジンの特徴だ。  次第に大きくなる影。太陽光を反射して光った。 「!!」  グオンッ!!  至近距離を高速で通過した。危険極まりない距離だ。 『ファイツオンー!』 「ファイツオン」  抑揚の無い声でイルビスが応えると同時に左旋回に入った。ミラーにすれ違ったファルクラムが右旋回(相手機にとって)に入る。このまま旋回すれば向かい合う形になるだろう。最も、旋回半径は向こうがかなり大回りな上に、旋回速度も速い。 (射撃チャンスは一瞬有るか無いか・・・)  順調にすり減る速度。相手は格闘戦に置いて最強レベルの機体と言って良い。頭上に向かい合う形で突っ込んでくる“敵”。ヴェイパーを曳いている。詰まる距離。射撃態勢に入る瞬間。 「ーッ!」  太陽に相手が重なる。目が眩む。サイトのレティクルも完全に消えただろう。そのまま庇の上に消えた。前席のヘルメットが必死で上を仰ぎ相手を探す。 「・・・・・・ッ」  居た。だが、進路上に層雲。完全に逃げ込んだ。こちらも相手を追う。  ドンッ  ガタガタと機体が揺れる。内部の気流はあまり良くない。 「計器はしっかり見とけよ!」  山に接触するような高度ではないので、高度は大丈夫だろう。それよりもバーティゴ(空間識失調)が怖い。視界はひたすら灰と白。上下感覚が狂ってしまいそうだ。  グルッ 「?」  雲の中を左に4G旋回していた状態から、何故かイルビスは反対に切り返し、3G旋回に入った。直進なら解る。感覚で相手がそのまま左に居るかのように、左に旋回し続けてしまうのも解る。だが、何故切り返した? (上がった・・・)  そのまま上昇に入った。雲の上に出るか。  灰色が白に変わり、眩い光と蒼が現れた瞬間・・・・・・  左斜め前方、オレンジの虎柄が背中を見せて旋回していた。手を伸ばしたら届きそうな距離。機首を“虎”に向ける。撃墜ー・・・  “虎”がこの機を軸に大きく螺旋上に右回転した。バレルロールだ。そのまま追い越してしまう。  後ろを取られてしまった。そのまま逃げられる。  
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