第2章 ティガー

13/30
前へ
/319ページ
次へ
 SIDE “ソーン” 「カンが鋭いみたいやな」 「ー謎の切り返しッスか」  まるで雲の中のシザーズを読んでたような切り返し。レーダーもなく、誘導もない状況でこちらの動きを読んだ?何なのだ。 「気合い入れて行くで?歯ァ食いしばれや」 「ー了解しました。“レオ”」  隊長のTACネームを呟いた後にこっそり舌打ちする。何が「了解しました」だ。  ドンッ  アフターバーナー・オン。背中で2基のエンジンが火を噴くと同時に、爆発的加速でシートに押し付けられた。 「イルビス、今からお前を墜としにいく。両方が攻めや。お互いガンのみで行くで」  グッ!!!!  頭上から襲いかかる体重の9倍の荷重が視界から色と光を奪う。呼吸が苦しい。上半身に力は入れっぱなしだ。苦しい。痛い。だが、少しでも力を緩めた瞬間、意識をあっという間に失うだろう。皮膚の毛細血管が破裂し、ヒリヒリと痛みだす。旋回は緩まない。 「ーッ」  視界に色が戻った。水平飛行。  ゴウッ!!  キャノピーのすぐ真上を影が通過した。イルビス機。  グッ!!!!  再び7G。右水平旋回。ミラーに写ったL-39が自機の後ろを獲るように旋回、すぐミラーフレーム下に隠れた。 「速くなったやないか」  笑みを含んだ声。  心なしか、こちらが「逃げ」のみの時より格段に旋回が速い。機動にも無駄が感じられない。だが、小回りは向こうが上だが、旋回速度はこちらが格上だ。大回りになりつつも、後少しでL-39の真後ろを捉える。 「さて、殺ってまうで」  前席のHUDには、レティクルが出ているだろう。1時方向にイルビス機が達した瞬間だった。  ブンッ!  前方のL-39がいきなり反対に降下しつつ切り返した。速い。 「速いやないか~」  嬉しそうに追う。キルコールしてないという事は、撃墜出来なかったのだろう。うまく射線を外した。互いの後部を追い、螺旋上に旋回戦に入る。スパイラルダイブ機動だ。  機速が急激に増加する。このままではオーバーシュートしてしまう。  まさかー  案の定、機速がつき過ぎ、オーバーシュートしてしまった。イルビス機が真後ろになり、背面状態から襲いかかる。 「ーかかりよったわ」  カンッ!  金属音が響いた気がした。
/319ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加