第2章 ティガー

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『状況を下達する。状況を下達する。』  ハンガー内でスピーカーが鳴り響いた。 『アンノウン接近中。アンノウン接近中。26800フィート、500ノット。エンジンスタートせよ。エンジンスタートせよ』 「だそうだイルビス。エンジン始動!」 『ツー』とだけ返されると同時にジェット・フューエル・スターター始動音が聴こえてきた。俺もかけなくてはな。  SIDE “イルビス”  甲高いタービン音が徐々に鋭い咆哮に変わっていく。目の前で光を放つ2枚の大型液晶ディスプレイに表示されるエンジン出力計が40に達し、挙げていた右手を下げる。  左エンジン・・・始動。  クィイイイイイイイイイー  唸りを上げて始動する左エンジン。既にいつでも行ける状態になった右エンジンが、「まだか?早く上がらせろ」と言わんばかりに咆哮する。最早、大声を出しても3メートル下に居る機付長、リュークには絶対通じない。  推力計表示が40%に達した。左右両エンジンが飛べる状態になる。後は私がランウェイに走らせ、左手のスロットルを最大限押し出せば、この機は完全に「空」のものになる。  私の下を走る整備員が赤いリボンを見せる。「武装解除」。主翼下のミサイルから引き抜いたデ・アーミングピンだ。これでこの機の槍は完全に殺傷力を得た。  整備員が高々と両手のパドルを挙げた。「行ける」の意味。もう戦える状態。 『ヴェルグタワー、グールフライトチェックイン。リクエストタキシーアンド、スクランブル。』 ≪グール01、ヴェルグタワー。クリアーフォータキシー。ホールドランウェイ07≫ 『グール01、ラジャー』 「ツー」  短く応える。 『イルビス、出るぞ。バイザー上げろ』 「はい」  照明があるアラート内から直ぐに闇夜に出れるよう下ろしていたバイザーを上げ、スロットルを前進させた。リュークに敬礼する。  暗い。完全な闇夜。今夜は天候が良くない。右斜め前を進むクルィークのファルクラムの衝突防止灯とランウェイのライトのみが輝いている。  ランウェイ07端に到着、ステアリングをセンターラインに並行にする。HUDの方位表示が070を指す。
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