第2章 ティガー

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≪グール01、ヴェルグタワー。アフターエアボーン、ターンレフト、ヘディング020、クライム、エンジェル27、バイゲイト。ウィンド090アット3。クリアードフォーテイクオフ≫ 『ラジャー、グール01。行くぞ。』 「ツー」  短く応じると同時に、右前方のクルィーク機が赤い火炎を噴き、急激な加速で、駆けていく。 「ー行くよ」  愛機に短く告げ、左手を押し込んだ。強烈な加速が身体をシートに押し付け、視界の全てが後ろに流れて行く。跳ね上がる速度表示。250でスティックを手前に引く。  世界が足元に消えた。私の眼前には、大型液晶ディスプレイが放つ光と、HUDの緑の光、1番機の衝突防止灯のみ。  基地全体を包んでいた爆音が消え、再び静寂が戻ったエプロンで、リュークは空を仰ぎ、祈る。ーどうか、生きて還って来れますようにーと。 「ーグールフライト、エアボーン。アンノウンに向けて進空中。」 「了解。バックアップ編隊は?」 「ベンツヘルムのバリウスフライトが待機中。グリペンEです」  レイヴェン公国空軍北方警戒管制団指揮所に緊張感が走る。大量のディスプレイが並ぶ薄暗い部屋の中央に大型の統括ディスプレイが設置されている。衛星、レーダーサイト、警戒機、海軍のイージス艦などが空を監視して得た全ての情報が載っている。現在、遥か北方の空から接近中の国籍不明機の元に2機の戦闘機が進出中で有ることが表示されている。 「妙ですね。」 「ん?」  若い管制官が怪訝そうな表情でディスプレイを睨んでいる。 「リュクシアなら陸伝いで来るケースが大半なのですが、ちょっとこれは・・・・・・」  アンノウンは北極の方向から飛行してきた。あの方角には中立国、フェルゼン共和国が有る。レーダー反応から見て、アンノウンは戦闘機の類いだ。そもそも何故突然現れたのか・・・。 「民間機の陰に隠れていたか。」  SIDE “クルィーク” 「ー暗っ」  現在、高度27000フィートを450ノットで飛行している。新月の夜だ。星の光が有るとは言え、恐ろしく暗い。視界を照らす灯りは、計器類の照明と、HUD、レーダーディスプレイの灯りだけだ。後続の2番機を一瞥した。  ー丸見えだろうな・・・。  イルビス機のSu-35Sの強力なセンサーの能力で、この闇夜でも問題無く見えてるハズだ。
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