第2章 ティガー

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 イルビスじゃない。明らかに違う声。低くはないが、押し殺したような声だ。その上はっきりと日本語を話した。 『ー久しぶりだ。日本人と飛ぶのは・・・』 「ー誰だ?何者ー」  問い掛けた瞬間  パッー  左手真横に居るアンノウンが衝突防止灯を点灯した。垂直尾翼に狼の様な紋章が浮かぶ。 「ー!?」 『ソーンに宜しくと伝えろ』  ーコイツ、何でソーンを知って・・・!? 「誰だお前!?」 『ガル。では、また近い内にー』  ドンッ!!  イーグルがバーナー火炎を噴き、右に大きくバンクを取った。 「待てや!!」   バーナー・オン。追尾する。流石はイーグル。加速力が凄まじい。 「・・・ハッ・・・ウチの国はこんなの200機も所有してんのか」  緩やかな右旋回。イーグルの加速は止まらない。方位015で水平飛行に移ったのが見えた。そのまま飛び去る。 「ー速いな。やっぱ・・・」  闇に赤い火炎と衝突防止灯が流れていく。 ≪グール、帰投せよ≫  「グール、ラジャー・・・。コンプリートミッション。RTB。」  ーリターン・トゥ・ベースを告げ、機首を反転させた。 「ーガル?誰それ」 「は・・・?お前の知り合いじゃないの!?」  PXで買ったであろうカボチャプリン片手にPCゲームに勤しむ相棒は、素で知らない様だった。  「そもそも、知り合いの日本人戦闘機パイロット自体、この国の傭兵以外居ないけど?」 「でも、お前のTACネームハッキリと呼んだぞ?」 「ー怖ッ・・・」  わりと素の反応だ。何かを隠しているようにも見えない。 「同期にしては変だよ。お前の同期=俺の同期じゃん?」   「だよなー」と言いつつ、カフェインドリンクに手を付けるソーン。恐らく一睡もしてない。順調に寿命を削っている最中だ。 「・・・・ってかさ、イルビス凄くね?」 「はい?」  いきなり振られて少し驚いた表情を見せたイルビス。 「闇夜でよく見えたよな。相手がイーグルって。IRで機種解ったとかじゃなくてマジで見えたんだろ?」 「はい。輪郭が見えてました。」 「デビューで今回ぐらい対処できれば大丈夫なんじゃない?」  彼女の表情は相変わらず無表情だが、まんざらでも無い様子だ。妙なデビュー戦になったが、相手機を識別という役目は果たした。デビューとしては、良好と言えた。
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