第1章 エンゲージ

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   エリア“N” 高度30000フィート  眼前にはひたすら蒼が広がっている。眼下には白い雲の山脈。  ゴオオオオオッ  狭い空間を轟音が満たしている。呼吸をするごとに酸素を供給するレギューターの音が耳障りだ。だが、この空間は生き物の生存に全く適さない、地獄とも言える空間だ。外気、マイナス52℃。酸素も極めて薄い。マスクを外せば、数分で永遠に醒めない眠りに就くだろう。 『アウゲ、ティガー。WP(ウェイポイント)5到達。次のポイントでCAPに入る』 ≪ティガーフライト、ラジャー≫  編隊長機が80マイル西方を飛行中のAEW機(早期警戒機)に連絡する。俺達の任務は、国境付近空域のCAP(戦闘空中哨戒)だ。  編隊長機は右斜め前方・・・1時方向60メートル前方、エシュロン・クローズと呼ばれる隊形で飛行している。外側に傾いた2枚の尾翼に間隔を開けて配置された2基のエンジン、胴体と一体化した主翼。かつて北方の地に有った巨大な連邦国家が産み出した軽戦闘機MiG-29ファルクラム。その機体は灰色の地にダーク・グレーの虎縞の塗装を身に纏っていた。ティガー(虎)隊たる由縁だ。  俺達、2機のファルクラムはエンジンの特性上、黒煙の航跡を吐きながらCAPのポイントに到達した。これよりパトロールに移行する。 『・・・ソーン、チャンネル“サーベル”』  哨戒開始から10分、離陸から37分になる頃か、無言の状態に痺れを切らしたのか、クルィークが編隊内周波数に切り換えるように指示した。HUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ)のレーダー表示にはなにも反応が無い。AEW機も、近隣SS(レーダーサイト)もなにも言わない。事前連絡が有った航空機以外は、この空域に飛行物体は無いことになる。
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