第3章 フランカー

9/64
前へ
/319ページ
次へ
 にしても・・・・・・。  左斜め後方にピッタリと貼り付いて飛行するフランカーを一瞥した。 「さっきからやけに寄り添ってくるな・・・」  ー何故?思い当たる節がない。  目指す先にランウェイライトの灯火が見えたのはほぼ同時だった。 「ーでは、よろしくお願いします。」 「お疲れ様でした」  降機チェックを終え、整備隊に機体を引き渡す。いつも以上に厳しめに機体を見回してみたが、特に以上は見られなかった。まぁ、噴煙に向けて突っ込んだわけでもない。雹に突っ込む方が遥かに厄介だ。  明日は一応非番だが、何故かあまり帰る気にならない。アイスの自販機真横のソファーに腰掛け、スマホを弄る。 「コーヒー、微糖と無糖のどっちが良いですか?」  不意に話し掛けられ顔を上げた。 「イルビス?」  両手に缶コーヒーを持って立っていた。 「いや、悪いって」 「いいですから。」  ウィスパーボイスで促される。 「・・・ありがとう。ブラック頂きます」  ブラックコーヒーを受け取る。  苦い。疲れが溜まった身体にコーヒーの苦味が染み渡る。これはこれで良い。 「ー失礼します」  斜め前のソファーにイルビスが座る。いつも思うが、全く疲労の色が見えない。薄暗い照明に照らされた白い髪の毛が、やけに綺麗に見える。  「ー」  しばしの沈黙の末、口を開いた。 「イルビス、あのさ、」 「はい?」  鮮血の色の瞳が俺を見つめる。少しドキッとしつつも、 「今日、なんか気を遣わせてしまってるけど、俺なんかした?」  一瞬キョトン顔になる。 「いえ、特にそういう訳では・・・・・・・・・」 「?」  気になる。 「ーその、なんと言ったら良いか分からないのですが、ソーンの事を実戦を経験した人だと思うと・・・」 「意識するとか?」  「ーはい。」  ああ、そういうー   「実戦経験者が凄く見える、ねぇ・・・・・・まぁ、気持ちはわかるわ。俺も配属してすぐはそうだったし。でもなー」  イルビスに向き直る。 「今回の追いかけっこ程度は今後全員経験するよ。ウチの基地は撃墜記録持ちも居る。」 「撃墜記録持ち・・・」  真剣な表情になる。やっぱり気になるか。 「まずレオ隊長。あの人はSu-24を3機撃墜してる。15飛行隊のリフター隊長もな。一番身近な人間だとクルィークな。」 「ークルィークが・・・?」  表情に驚きが見えた。先輩に対する尊敬の念も有るか。 「ーしかもアイツはエースパイロットだ。ツイてるんだよ。何かが」 「ツイてる・・・?」 「敵に接触出来る運ーだな。」
/319ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加