真夜中売り

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この国には夜がない。 だから当然、真夜中もなければ、真夜中のワクワクするような、あるいはぞくぞくするような感覚を味わうこともない。 夜を無くしたのはこの国のかつての王だ。 彼は真夜中を怖がり、魔法使いに頼んで夜をなくしてしまった。 たが、夜のない国を憂れう人もいる。 夜のない国を経済の好機と捉える人もいる。 彼女もその内の一人だった。 ※※※※※※※※※ 「『真夜中』はいらんかえ」 彼女の声が今日も闇市場に響く。 「ばあさん、一つくれ」 「はいよ、真夜中一つね」 ぞくぞくするような真夜中。 それをチョキチョキと一片に切ると、老婆は客に手渡す。 「『真夜中』はいらんかえ」 ぞくぞくするような。 あるいは、ワクワクするような。 客はそれぞれの夜中を求めて買いに来る。 老婆は需要に応じて夜を切り売りする。 ※※※※※※※※※※※※ 今日もこの国に夜は来ない。
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