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真夜中の社畜
窓の外、先ほどまでの雨風が嘘のように、月明かりがぼんやりと彼女の顔を照らしていた。
台風の目に入ったのか。僕はそんな疑問を抱いて、窓の傍に寄り月を見つめた。
真面目な彼女は、明日の交通機関の麻痺を見越して、こうして真っ暗なオフィスに泊まることにしたようだ。
先ほどまで、忙しくキーボードを叩いていた彼女の白く細い指は、何日前にしたのかわからないようなマニキュアの名残が爪先に残っている。若い娘が、オシャレすらできずに、会社に詰めていなくてはならないのは理不尽すぎるな。
彼女のデスクには、山のように積まれた資料が残されている。
「こんなの、どう見たって無理だろう。」
要領のいいやつらは今ごろ、彼女にすべての仕事を押し付けて、自分たちだけは、自由に有休を謳歌し、自宅の柔らかなベッドで眠っていることだろう。
僕は、眠っている彼女の横のデスクのパソコンを拝借して、静かに電源を入れた。
「はっ!」
香織は、突っ伏していたデスクから、顔を上げると、すぐに時計を見た。
「うわー、寝てた。ヤバい、もうこんな時間だあ。」
時計の針は、午前5時を指していた。
「プレゼン、全然原稿できてないよお。どうしよ。」
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