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カイソンは、小舟の船底に用意してあった木片を取り出した。二十本ほどある。
木片には、松脂に浸した布切れを巻きつけてある。これに火打ち石で火を灯す。松明が次々と出来上がった。
カイソンは岩礁に松明を等間隔で立てかける。
「よし。暗闇だからホントに武者がいるかどうかは見えねえ。平家側は、二十人の襲撃隊が来たと、勘違いするはずだ」
カイソンは呟くと、船底から弓矢を取り出した。
正面にある帆の立った船の舳先を見据えると、思い切り矢を引き絞った。
「行けえ!」
カイソンは叫ぶと、矢を放った。
矢が、闇をつんざいて飛ぶ。
矢は、船の舳先を超え、甲板へ着地した。
カイソンは、次の矢を放つ。
二本目が甲板に届くと、見張りの武者が大声で叫んだ。
「敵襲! 敵襲じゃ! 松明が見えるぞ! 前方から敵襲! 者ども出会え出会え」
船中にいた平家の武者たちが、次々と甲板に出てくる。
「二十人はいるぞ。こちらも矢で応戦じゃ」
最後尾に陣取り、青糸縅の鎧を身につけた大将らしき武者が叫ぶ。
前に並んだ武者たちは、一斉に弓を手にした。
カイソンが立てた松明に向け、あまたの矢が放たれる。
「よし。囮作戦成功」
カイソンは岩礁の陰にに隠れ、ほくそ笑んだ。
「あとはベンケイ。うまくやってくれよ」
ベンケイは、潜水を続けていた。口に竹筒をくわえ、海上に先端を出して息をしている。
(カイソンさんが平家方を引きつけている間に、私は帆柱のある船の船尾に回り、船に潜入する)
息を吸いながら、ベンケイは思った。
(絶対に成功させなければ)
「絶対に成功させろ」
それは、ベンケイの主君であり、平家討伐軍の現場指揮官であるヨシツネの言葉だ。
ヨシツネはベンケイとカイソンに作戦を命じる際、眉間に皺を寄せ、告げた。
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