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「兄者、ヨリトモの命令なんだ」
ヨシツネの兄ヨリトモは、源氏の棟梁。平家討伐の総大将である。戦闘現場は弟のヨシツネに任せ、遙か遠く鎌倉に留まっている。
「兄者に言わせれば、三種の神器のうち二つでも手の内に納めている間は、平家に自分たちこそ正統な政権だと主張する根拠がある。だからそれらを奪えば、源氏こそ正統、と主張できる。源氏が正統ってことになりゃあ何も平家を殲滅する必要はない。和議を結んだっていい」
「なるほど」
ベンケイとカイソンは揃って頷いた。
「逆に、だ」
「逆に?」
「逆に、三種の神器が失われる事態になれば、源氏もまた正統性の根拠がなくなる。たとえ武力で平家を圧倒しても、政としては負けなんだそうだ」
ベンケイは再度、頷いた。
「政のことはよくわかりませぬが…つまりそういうことなのですね」
「ああ。だが俺は兄者とは違う」
「違う?」
「俺はガキの頃から、平家を弓矢の力で圧倒することだけを夢見てきた。二度と立ち上がれない位にな。平家は父ヨシトモの仇だし、『平家にあらずんば人にあらず』なんて抜かしてふんぞり返っていた奴らだ。許せねえ」
ヨシツネは腕を組み、視線を横に逸らした。
「三種の神器を奪った程度じゃ飽き足らねえ。奪った上で、徹底的に打ちのめしてやるんだ」
「あ、なるほど」
ヨシツネとベンケイの会話を黙って聞いていたカイソンが手を打った。
「つまりお前は、まず先に兄上の政の上での希望を叶えてやってから、自分の本懐を遂げたい。そんな感じか?」
ヨシツネは口の端を僅かに歪め、頷いた。
「そんなところだ」
「で、そういう事情だから他の奴には頼めねえ。俺たち二人に内々でやらせようってことだな」
ベンケイが頷いた。
「なら、喜んで。お役に立てるなら」
潜水を続けながらヨシツネの言葉を思い浮かべるベンケイの脳裏に、一抹の不安がよぎった。
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