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平家母船の甲板で、怒声が突如響き渡った。
平家の大将、トモモリである。
「あれは敵であること明白! 矢で狙い撃て!」
平家の武者たちは、目覚めたように一斉に弓を構えた。
「おう。そう来なくっちゃな」
巫女は、眼に笑みを浮かべながら、五艘めへと飛ぶ。
あまたの矢が空中の巫女へ向け放たれる。
巫女は飛びながら巧みに姿勢を変え、次々と矢を避けていく。
「ふふ。当てられるもんなら、当てて見ろ」
巫女が笑った。
巫女は平家方の船でも構わず、着地する。
平家の武者が突き出すなぎなたをひらりと躱し、次の船へと飛ぶ。
トモモリは歯噛みした。
「くっ。先刻とは違い、今は海上に平家と源氏の船が入り乱れて戦っておる故、味方が犠牲になる。大波は起こせん」
トモモリは前方から次第に近づいて来る巫女を指差し、下知した。
「もっと前へ進め。近距離から狙い撃て」
これに従い、母船を囲んでいた平家の船が、こぞって前進を開始する。
巫女を狙う矢が格段に増えるが、巫女に当てることはできない。
「母船に近い船を引き離して、飛び移れねえようにってことか。甘えな。これでも全力の飛躍じゃねえ。加減してるんだぜ」
巫女は、再度笑う。
その時。
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