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「カフェ兼業にしてしまうと、法律上、本の貸し出しができなくなるんです。かと言って、入館も無料にしてしまうと、図書館が維持できなくて……何せ、私設ですから」  答えながら、男性がメニューを差し出す。 「お飲物代は、入館料に含まれます。それに、種類はそこにあるモノだけ、茶菓子はありません。カウンターで食べる分には、お持ち込みは自由となっております」  受け取ったメニューには、紅茶・珈琲・ココアしかない。三種類共、アイスとホットは選べるようだった。 「じゃあ、アイスココアを」  メニューを返しながら言うと、男性はそれを受け取りながら「承りました」と会釈する。 「おかわりも自由ですので、ご遠慮なくお申し付け下さい」 「ありがとうございます」  ココアが出されるまで、黎苗は館内をグルリと見回した。  館内は横に長い。左手奥へ続いているようだが、黎苗が座っている位置からでは、それ以上を見ることはできなかった。  煉瓦で作られた壁がまたレトロで、照明はランプである。デザインが統一されてはいないのだが、それが全く不自然に見えない。  黎苗の背面にも書棚があり、本が所狭しと並んでいた。 「お待たせ致しました」  紙のコースターに、六角柱のグラスが置かれる。 「あ、ありがとうございます」  ココアの中で氷が揺れて、カラカラと涼しげな音を立てた。  一緒に出されたストローで、ココアを吸い込む。ついさっきまで、熱の下がらないコンクリートジャングルの中を歩き回っていた為か、それがとても美味しく感じられた。 「あーっ、生き返るー」 「恐縮です」  にこやかに言った男性は、「昨日は、どちらかで面接でしたか?」と問う。  最近になってやっと面接の正しい服装を覚えた黎苗は、黒の上下に身を包んでいる。スーツと言えばスーツに見えるかも知れない。  ただ、間に合わせで買った黒い上着とタイトスカートを合わせ、インナーはワイシャツだから、きちんとしたスーツとも言えない。  その上、足下(あしもと)は、男性には見えないだろうが、移動の間のみ履いているスニーカーだった。数年前、大きな地震があってからは、遠出する際には、面接時だけハイヒールに履き替えるようにしている。いざという時、素早く動けるようにだ。
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