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 拷問のような面接の時間を乗り切ったところで、数日後、家に来る返事だって決まっていた。 『厳正に審査した結果、誠に残念ながら、貴意に添い兼ねる結果となりましたことをお伝えします』 (なーにが、“誠に残念”よ)  一ミリだってそんなこと思っていないクセに、よく言う。  厳正に審査なんて、どうせしちゃいないに違いないのに。それどころか、通すつもりの面接などしていないのではないかと、勘ぐりたくなる。  どうせ、通すつもりがないのなら、こちらの時間と精神を無駄に擦り減らすのをやめてくれ、とも言いたくなる。  だが、この通知が来ると、がっかりすると同時にホッとした。  万が一通ったら、やりたくもない仕事に一日を縛られ、自由はなくなる上に、死ぬほど嫌な人付き合いもしなくてはならない。  だが、このままでは、好きでもない男と結婚させられる。それも御免だ。  いざとなったら、確実に死ねる所から身投げでもするより他に道はないだろう。 「……それに、折角資格取ったって、今は経験がないと採ってくれないし」 「世知辛い世の中ですからねぇ」  相槌を打つその人の声が、なぜか心地いい。 「ちなみに、どんな資格をお持ちなのでしょう。お訊ねしても?」 「医療事務と司書補です。取ったのは随分前で、特に医療事務は今業務に就こうと思っても自信はありませんけど」  図書館の資格に限って言えば、司書なら多少は採用される確率は上がる。  だが、黎苗の最終学歴では司書補の資格しか取れなかったのだ。この段階から、大学へ行かずに司書の資格を得るには、まず司書補としての実務経験を三年間積む必要がある。  だが、それも不可能に近かった。司書でない上に、未経験者は雇ってくれないのだから。 (じゃあ、何か? 仕事の経験はさせてくれないのに初心者はダメなのかよっ。どこもそんなじゃ、どこで経験積めっていうのさっ!)  考えている内に腹が立ってきて、黎苗は内心で歯軋りした。 「未経験者は採ってくれないから、そうこうする内に、勉強の内容を忘れた、と」 「……そんな所です」  端的に言われて、投げ出すように返し、黎苗は肩を竦めた。
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