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そして当日
「ええ、当日ですね。」
君が起こしに来た。
「今日、この日を指定したのは君だろう。」
「貴女は聡明でいらっしゃるから、気づかれてしまいましたか。」
君がずっと死にたがっていることはわかっている。
「さあ、どうぞ、貴女のお好きに。」
だけど、君だけ簡単に死なせない。
君は早くに作られた分、私より多くの物事を知っているのだろう。
だけど、私は君よりも後に改良されて作れたのを君は失念していたようだ。
ついさっき気づいたことだけど、君が気づくまでにかかった時間よりも早く、私はそのことに気付いたようだ。
「君を殺すくらいなら、私が死ぬさ。」
君を殺すために生きてきたけど、君がいなくては生きていけないことに気付いたんだ。
父母がなくなったあの日よりも熱い火が私の周りを取り囲む。
「君が両親を殺したことは知っている。むしろ君が教えてくれたようなものだ。でも君の望み通り君を殺すことはできないようだ。なぜなら、君を」
「貴女が、貴女がいなくては、私は、生きていけない。」
そういって君が火達磨の私を包み込んだのは想定外だった。
いくら能力値の高い人工生命体の君でも私が死ぬための火では無事ではないぞ。
「どうやら君も私を簡単には死なせてくれないらしい。」
どうにか火を消した私は火傷で皮膚がひきつった君を手当てしている。
十年ぶりに涙を流しながら。
「私は、君を―」
「私は貴女を愛しています。」
少し前まで君を殺せたのに。
どうやら私も君を愛しているようだ。
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