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その時のことはあまり覚えていない。
私を助けだした人は、あまりにも私によく似ていた。
容姿や行動ではない。
私が異物であることを認識していたように、君も同じように自らが異物であることを認識していた。
部屋を出てすぐに、折り重なった白骨を見つけた。
それから10年、その時を最後に涙を流さなかった。
君は10年をかけて私の醜い憎しみを育てていった。
そして、ゆっくりゆっくりとその憎しみを向ける相手を君だと気づかせた。
私は10年をかけて君への依存を強くした。
そして、ゆっくりゆっくりとその芽生えた感情がなんであるかを気づいた。
火事の後始末も片付いたころ、私は母の健康手帳を見つけた。
一緒に母子手帳も見つけた。
母は早期出産で子どもを亡くしていた。そしてその時子どもの産めない体となっていた。
私が生まれたのはその後である。
母子手帳も早産の子が亡くなった時で途切れている。
私の母子手帳は見つからなかった。
あるとき、父の手記を見つけた。
―1号が完成した。―
それから日がとんで
きれいに切り取られていて気にもならないほどだが、何らかの理由で大部分が抜き取られていることが分かった。
―15号は成功である。妻も喜ぶだろう。―
―あの子を「いちご」と呼ぶことにした―
―1号の二の舞にはさせない。何としてでもいちごを守らなければ―
―いちごには不便をかけている。ただ、こうするしかなかった―
―あの時妻と立ち直るために行った研究は、やはり禁忌であった。しかし、これがなければあの子たちに出会うことはなかった―
ふいに、父と母は遺伝の研究をしていたことを思い出した。
母はゲノム編集に博学であった。
父はクローン技術研究で多くの論文を出していた。
こうやって少しづつ自分がなんであるかを認識していった。
君の策略と計画によって。
そして、父母がそうしなければならなった要因を知った。
まるで君が諸悪の根源であるかのように誘導されていった。
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