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私は君が誘導したように、
君を殺害する計画を立て始めた。
計画を緻密にしていくたびに思い出されるのは、
私を呼ぶ君の声だった。
君は決して私を名前で呼ばなかった。ただ、「貴女」と呼んでいた。
しかし、名前のない私には十分だった。
そういえば一度戸籍を確認したことがあったが、そもそも私という人間は戸籍上存在していなかった。父母が呼ぶ「いちご」は本当にわたしのなまえであったのかでさえ確証が持てなくなった。その日から私の名前はない。
惜しむようにのろのろと計画を実行していくときには、
君が私の頭をなでる手が鮮明に思い出された。
数えるほどにしか両親と接することがなかった私には、
「私は貴女に期待しています。」
といって頭をなでられたことは新鮮だった。
それは君の癖なのか、事あるごとに私の頭をなでているのを君は知っているのだろうか。
君を殺害する二日前、
私は君に名前を聞いてみた。
十年一緒にいたのにお互い名前を呼ぶことなく生きてきた。
だけど、最後に君の名前くらいは憶えておきたかった。
「私に名前はありません。」
君も名前がないのか。
自分の名前などどうでもよかったのに、君の名前がないとなると寂しくなるらしい。
気が向いたら、私が君に名前を付けてあげよう。
一号なんて味気ない名前じゃなく、君に似合った名前を
その時は君も私に名前を付けてくれるだろうか。
君を殺害する一日前
なんだか君の手を離したくなかった。
どこへ行くにも手をつなぎ、いつも君の気配がした。なんだか小さい時をやり直しているような気分だった。
私の様子がおかしいことに気付いているのか、君の様子がおかしいのか、いつもより、君が頭をなでる回数が多かった。
「君は私の頭をよくなでているが、気づいているのか。私はもう子供じゃない。」
君が一瞬驚いた顔をした…ような気がした。
そして、殺害予定日前夜、
君は私が寝付くまで私から離れなかった。
「私は貴女を―――――――。」
その言葉は、起きている時に言うものではないだろうか。
でも私は寝てしまっている。
今度また起きている時に聞かせてくれ。
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