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唐猫
袴着の後しばらくして、
女房などの少なく、手薄になった頃合いに、
瑠璃君の許へ
御簾の間から美しい唐猫が入った。
君は「胡蝶」と名づけて首に鈴をつけ、
手づから物など食わせいとおしみなさる。
唐猫はどこからか入って来ると、
みな寝静まった真夜に出て行く。
このような珍しく、清らな風の唐猫は一体どこの屋敷から逃げて
こちらへ紛れ込んだものやらと
君より他の者たちは訝った。
瑠璃君は日増しに美しく成長され、輝くばかりである。
射干玉のように黒く多い髪のかかりようが
いかにもろうたげである。
利発で、手ならいもよくし、歌もよく詠み、
管弦のあそびは、筝の琴をなさる。
ねび勝り(*)なさる様子は帝へ差し上げ奉るに申し分ない。
唐猫もいつしか来ないようになり、
瑠璃君も心にかけた様子もない。
大納言殿は、瑠璃君がまつわりつかせていた胡蝶と唐猫を
いたく心もとなくお思いになっていた。
陰陽師に占わせると、心儲け怠りなくとのことだった。
(*)ねび勝る 美しく成長する
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