『子守唄』

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『子守唄』

 仕事が終わり、夜12時前に我が家に到着。  玄関を開けると、高校生になった息子たちが、我先にと「おかえりー」と鞄を取りにやってくる。ここまでは、いつものことだ。  今日は、少しばかり違っていた。二人揃って「申し訳ありませんでした」と土下座をする。 自転車で車にキズでもつけたのかと思ったが、そうでもないようだ。何事かと聞いても答えない。  ようやく、「忘れておりました」と続ける。  ――そう、わたしの帰りが遅くなるので、息子たちにお金を渡していたのだ。「ケーキを買って来い」と。  今日は、結婚記念日なのである。9時ごろになって、ようやく思い出したらしい。  高校生の息子が、父親の鞄を受け取りに来る、というのは珍しいだろう。わたしなど「お帰り」さえ言った覚えがない。  どうして、このような息子達が出来上がったのだろうか。  幼稚園に行く前は、「おとうさんに、いってらっしゃいする」といって、毎朝、アパートの2階の窓の手すりに登って手を振っていた。だが、これは小さい頃ならよくある光景だろう。  心当たりは、ひとつだけ。嫁さんが、息子たちを寝かしつけるのに子守唄を歌っていたことぐらいだ。そんなことは、うちでもやっていた、という人もいるかもしれない。  だが、我が家では、小6の夏ごろまでやっていた。さすがに、もういいんじゃないかと思ったが、どんな男が出来上がるか、興味があったので放っておいた。  ちなみに、明日は、嫁さんと映画でも見に行こうと思っていたのだが、休日出勤となってしまった。嫁さんが残念に思ってくれたかどうか――聞く勇気はない。  
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