『この世界の片隅で』  2018.8 

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『この世界の片隅で』  2018.8 

    『この世界の片隅に』という、テレビドラマをご覧になったことがあるだろうか。母は、その舞台となった呉の近くに住んでいた。母の父が駅前に葡萄畑を持っていたが、海兵団の兵舎を建てることになった、と言う。ただで取り上げられたわけではないが断れるはずもない。  憲兵が、訓練中に脱走したという人間を探しに来たことが一度ならずあったという。もっとも地元の人たちの見解は違っていた。  「殴る蹴るで殺してしまい。脱走したことにしたのだ。敷地を掘り起こしたら人骨がいくつも出てくるに違いない」と噂していたという。  その憲兵が回って来た時に家の裏にいくらか残っていた葡萄を見ていたので「どうぞ」と答えるほかなかったという。以降、立ち寄っては何を聞くわけでもなく、つまんで帰っていったらしい。腹を満たすことさえ容易ではない時代である。     
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