『初恋のようなもの』

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『初恋のようなもの』

相変わらず休めない。 にもかかわらず、ある本のディスプレイに手間をかけた。 スタッフには、これから映画化になるほかの作品のディスプレイにも使えるから、と言い訳をして。 だが、その作品に双子の姉妹が登場していなかったらどうだろう。 そんな面倒なことをしただろうか?  実は、わたしの初恋の彼女は双子だったのである。 その子が、いかにかわいい娘だったかと言う話は別の機会に譲るとして……。 遡れば、小学校3年の時にも双子の姉妹がいた。 姉が主導権を握り、妹がついていくと言ったパターンであった。 席替えがあり、その妹が隣になった。 妹の方がかわいかった。 平静を装いながら、日ごろ信心などしていない神様に感謝していると先生から、「視力の悪い者の事を考えてなかった。やり直す」と無情な通達があった。 彼女が言った。 「せっかく、八神君と隣になれたのにね。いろいろ話したかったな」。 魔性である。 げに怖ろしきは女である。 幼いうちから、男をたらしこむすべを知っているのである。 中学以降、かわいかろうが美人だろうが、女の子の名字さえろくに覚えず「名前を覚えてもらって光栄」と皮肉を言われたこともあるわたしが、未だにその子のフルネームを覚えているのである。 この話に続きはない。 その年、爆発的に人口の増えていたわが町に3つ目の小学校が完成。 次の学期には、その子はそちらに移って行ったからである。 image=512092468.jpg
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